黄昏戦記には様々な詩歌が登場します。このページでは詩歌を作者ごとに分類し、全文を紹介します。
夜空を焦がす炎が
焼き尽くすのは千年の歴史
かつて栄華を誇ったシュレーナの宮殿が
終焉の時を迎えている
それなのに
人々は美酒を仰ぎ
焚き火を囲み談笑し
勝利に酔いしれている
すぐ目の前で
こんなにも激しく燃ゆる宮殿を
こんなにも悲しく燃ゆる宮殿を
誰も見ようとはしない
灰になるのを待つ宮殿と
見ていることしかできない自分
互いに宴の賑いから離れ
黙して心の内を語り合う
故郷を離れた1年は
様々な人と出会い
色々なことを学び
瞬く間に過ぎていった
見覚えのある道
見覚えのある草木
そこに自分の足跡を
見出すことはできなかった
故郷を離れた1年は
生まれ育った風景を
共に過ごした匂いを
過去のものにしてしまった
見覚えのある山
見覚えのある空
そこに自分の日常を
見出すことはできなかった
故郷を離れた1年は
あまりにも短く
あまりにも長く
全てを変えてしまった
槍一振りで敵を制し
槍一突きで武功をあげ
槍一指しで道を示す
数多の戦場を駆け抜けた武人
一本の槍が生き様を語る
主君への忠義
兵士への信愛
領民への奉仕
崇高な理念を守り通した騎士
万人が偉業を讃える
テュバーウェス家の5年
ザミエル家の2年
数々の功績を遺した勇者は
ウィンデリンの間に召された
人々の平和を背負い
名槍イルクェンを手に
オークと向き合う勇姿は
同志を奮い立たせ
共に戦ったわずかな時間は
戦士たちの心に永遠に刻まれる
英霊よ 見守りたまえ
高潔なる遺志を継ぐ者たちが
勇者の名を叫びながら
栄光のために戦う姿を
眼前に広がる炎の海
波打つごとに慟哭が響く
炎の海を漂う影は
何を目指すでもなく
苦痛に悶え揺らめき
深く沈み掻き消される
燃え上る炎は
数多の命を躊躇なく奪い
私の心を容赦なく痛めつける
抗いようのない恐怖
救いのない絶望
押さえきれない怨嗟
やるせない悲哀
炎の海に呑まれる者も
炎の海を見つめる者も
やり場のない感情に
ただ涙するより他なし
勇者の誇り
勝者の栄誉
人々の幸福
それらすべてを焼き尽くしたのは
魔王を滅する地獄の業火
失われたものは大きく
得られたものが何かもわからず
炎の海の記憶だけが
私の心に重くのしかかる
戦場に咲く一輪の薔薇を
敵も味方も皆一様に
畏敬の念をもって仰ぎ見る
立ち姿は凛として麗しく
猛る情熱の内に気高さがあり
瞳はまっすぐ勝利を見据えている
振り向きざまに見せる笑顔が
あまりにも美しすぎて
嬉しさと苦しさが込み上げる
初めて出会った日
茨に抱かれた私の心は
あなたの虜になってしまった
あなたの手は私を包み込むのに
私の手はあなたに届かない
あなたの声は私に響くのに
私の声はあなたに届かない
近づこうとすると
見えない棘が突き刺さり
私の心を挫かせる
痛みに怯え離れれば
花びらの鮮やかな色彩が
私の心を引き寄せる
どうしてあなたは
私の心を狂わせるのですか
これを恋と呼ぶべきなのか
これを忠義と呼ぶべきなのか
今となっては知る由もない
戦場に散る一輪の薔薇を
輝かしい面影とともに
心の奥底に閉まっておく
ルーヴェントで君の名を知り
ノームルで君に出会うまで
憧れと恐れの狭間で
私の心は惑い続けた
早く会いたい気持ちと
会うのが怖い気持ちと
ふたつの気持ちがせめぎ合いながら
ようやく君に会えた時
悩みなど彼方に消えていった
気品ある清楚な佇まい
相手を思いやる優しさ
好奇心溢れる瞳
揺らぐことなき高潔さ
美しく
微笑ましく
君と過ごした楽しい時間は
私の心を満たしていった
私が感じたこの気持ちを
君も感じてくれただろうか
もっと君と歩いていたい
もっと君と話していたい
私が君を想うように
君も私を想って欲しい
故郷を失い
大切な人たちを失い
為すべきこともわからず
ただ流されるだけの日々
あなたの手が私を抱きしめ
生きる意味を教えてくれた
教養高く品があり
決して気取ることなく
いつも穏やかで
慈しみに溢れた
あなたが母になってくれて
私は救われた
ビルモーテの母と過ごした時間
ラデナの母と過ごした時間
長さの違いはあれども
どちらもかけがえのない時間
ふたりの母から
惜しみなく受けた愛に
報いることができぬまま
ただ己の不孝を悔やむのみ
軽やかな音曲に
人々の心は弾み
空を舞う花々は
青空を煌びやかに飾る
陽気に歌い
軽快に踊り
新年を祝う仮面の使者を
誰もが笑顔で迎え入れる
トル―ヴァが来た
トル―ヴァが来た
かつてこの場所で
恐怖と悲しみに追い立てられ
未来を断たれし者たちよ
誇りを胸に剣を握り
ヴィンデリンの間に召されし者たちよ
君たちが夢見た光景が
私の目の前で輝いている
願わくばこの日々が
これからも続きますように
武の極みに到達し
義と勇を尊び
愛に満ちあふれ
万人の敵として功をあげ
万人の友として善政を敷く
エルカステルを手に
黒嵐にまたがり
戦場を進む姿に
敵は絶望し
味方は歓喜した
その背を追い
肩を並べんと欲すれど叶わず
ヴィンデリンの間に招かれる日まで
ただ幻影を追う
墓前にて涙を流す子も
やがては父の後を継ぎ
騎士道を示し家名を高め
勇者の名を語り継いでゆくだろう
未だ戦火は収まらず
平和な日々は遠けれど
遺志を継ぎ民に安寧をもたらし
再び相見えよう
英雄などない
猛者などない
ここにあるのは屍だけ
太陽の暖かな日差しが降り注ぐこの場所で
景観に成り果てた戦士たち
武勇などない
悲哀などない
ここにあるのは屍だけ
恐怖と苦痛に歪んだ表情だけが
戦の苛烈さを物語っている
どこから来たのか
何を夢見たのか
どのように戦ったのか
そして
死を前に何を思ったのか
語るものは何もない
ここにあるのは屍だけ
物言わぬ戦士が見つめる先に
何ごともなかったかの如く
一輪の花が咲いていた
戦士は酒盃を片手に
喧騒のなかで
微睡みに落ちてゆく
血と泥にまみれながら
活路だけを求めて
戦士は歩んできた
敵の首塚を積み上げ
戦友の亡骸を踏み越え
戦士は歩んできた
顔を上げ前を見ても
進む先は霧がかかって見えず
俯き振り向いても
足跡は掻き消され残っていない
それでも戦士は歩み続ける
今まで歩んできた道を
戦士は朝日に目を覚まし
静けさのなかで
酒場の扉を開ける
灰色の戦場に
純白の騎士が舞い降り
殺気で淀む空気を
一陣の風が吹き飛ばした
白薔薇に触れし者は
茨に捕らわれ為す術もなく
赤い花弁を撒き散らす
白薔薇に導かれし者は
美しさに魅入られ為す術もなく
赤い花園を駆けぬける
暖かな庭園で芽吹き
冬の厳しい寒さに耐え
花開いた白薔薇は
どの薔薇よりも力強く
どの薔薇よりも誇らしく
どの薔薇よりも輝いている
貴人を引き立てるのではない
英雄を讃えるのではない
そこに咲く白薔薇そのものが
地上を鮮やかに彩り
歴史を大きく動かす
灰色の戦場に
純白の騎士が舞い降り
眩いばかりの光を放ち
未来への道を切り開く
その花は枯れていた
姿は昔と変わらぬものの
蜜は一滴も残っていなかった
蜜を求めて集った蝶は
飢えを癒すことも叶わず
次々と踏み潰されていった
花はその光景を見ても
助けることもできなければ
涙を流すこともできない
恨みの表情を向ける蝶たちのなかに
ひとりだけ憧憬の念をもって
花を見つめる蝶がいた
その花は枯れていても
姿は昔と変わらず
泰然とそびえ立っていた
散りゆく蝶たちの想いは
生者に受け継がれるであろう
そしていつの日か
花は生気を取り戻し
再び咲き誇るであろう
奪われし土地を取り戻すため
どれほどの死を乗り越えてきただろう
まるで昨日のことのように
これまでの戦いを振り返る
傍らの戦友と背を守り合い
どれほどの敵を屠ってきただろう
目の前にそびえる要塞こそ
最大の難所トリエロン
我らの槍を物ともせず
矢の雨を浴びせかけ
閉じられた門はびくともせず
高みから嘲りの笑い声が響く
嘆くな勇者たちよ
彼らはお前たちの敵ではない
今まで幾多の危機を切り抜けてきたのだから
こんな壁は壊せるだろう
今まで様々な苦難を味わってきたのだから
こんな試練は乗り切れるだろう
ここに来るまでに散っていった
英霊たちの加護が
戦いを勝利に導いてくれるだろう
長い長い戦いの果てに
ようやくここまで辿り着いた
決戦の舞台トリエロン
最後の力を振り絞れ
この一戦ですべてを決めるのだ
戦いが終わり故郷に戻る兵士たち
疲れがたまった足取りは重く
それでも一歩 また一歩
故郷に向けて歩を進める
鳴り響く怒号と剣戟
あちらこちらで血飛沫があがり
無数の骸が転がる戦場から
離れるために歩を進める
英雄は名声を上げ
国王は武勇を讃え
民衆は歓喜に湧き
兵士はただ安息を求める
戦いに傷つき癒しを求める兵士たち
友を失った悲しみは深く
それでも一歩 また一歩
故郷に向けて歩を進める
死者の分までまた一歩
兵士たちは日常へと戻ってゆく
霧が立ちこめるテンケス通りに
行商の鈴の音が響き
目を覚ましたアルヴィージ塔の鐘が
1日の始まりを告げる
貴婦人はタシュフェルン通りで
フォスゲール宮殿で披露するドレスを探し
主婦はパッサリヤ市場で
モルケイユ農園の野菜を手に取り
恋人はソールラント公園で
メルンの噴水に永遠の愛を誓う
年輪を重ねたイルタニアは
いくつもの枝をつけて
春には若葉を茂らせ
秋には枯葉を散らせ
いつもと変わらぬ日常を
繰り返して500年
アルディーユの巨木を囲みながら
昔ながらの街並みと
見たことのない街並みが
人々の物語を紡いでゆく
夕日に染まるマシュール通りに
男たちの笑い声が響き
眠たそうにあくびをするビオルグ門が
1日の終わりを告げる
再会した友の笑顔に
喜びの言葉を捧げても
友の心を占めるのは
まだ見ぬ愛しき君
夜更けまで酒を酌み交わし
詩について語り合った
友が想いを馳せるのは
まだ見ぬ愛しき君
どれほどの時間を
共に過ごしてきただろう
どれほどの思い出を
共に作ってきただろう
それでも友が選ぶのは
まだ見ぬ愛しき君
それほど心狂わせるなら
友よ お前を祝福しよう
今すぐ愛しき君のもとへ行き
お前の気持ちを伝えるがよい
そして再び会えたなら
友よ 話を聞かせてくれ
愛しき君との物語を
エルファノの娘に手出しをするな
口説けば墓の中までついて来る
エルファノの娘に手出しをするな
財布開けば自由に使える金がなくなる
エルファノの娘 かわいい娘
エルファノの娘 かわいい娘
エルファノの娘に手出しをするな
食事に招けば厨房を仕切りはじめる
エルファノの娘に手出しをするな
口づけすれば家族や親戚が増える
エルファノの娘 かわいい娘
エルファノの娘 かわいい娘
エルファノの娘に手出しをするな
手を出せば最後だ覚悟決めろ
船が着いたぞ荷をおろせ
船が着いたぞ荷をおろせ
一番目におろすのは
威張り散らした貴族様
身なりだけはきれいだが
船では汚物を撒き散らす
船が着いたぞ荷をおろせ
船が着いたぞ荷をおろせ
二番目におろすのは
厳つい顔した騎士様
迷惑かけた覚えがないのに
威嚇するのはやめてくれ
船が着いたぞ荷をおろせ
船が着いたぞ荷をおろせ
三番目におろすのは
でかい面した商人様
口を出すくらいなら
黙って金貨を出せばいい
船が着いたぞ荷をおろせ
船が着いたぞ荷をおろせ
四番目におろすのは
落ち着きないクソガキども
口を開けばうるさくて
動けば仕事の邪魔になる
船が着いたぞ荷をおろせ
船が着いたぞ荷をおろせ
五番目におろすのは
熟れすぎ果実のお嬢様
昔は美味かっただろうが
今となっては食べられぬ
船が着いたぞ荷をおろせ
船が着いたぞ荷をおろせ
六番目におろすのは
機嫌の悪い親父さん
そんなに愚痴をこぼしたいなら
家に帰ってやってくれ
船が着いたぞ荷をおろせ
船が着いたぞ荷をおろせ
七番目におろすのは
腰の曲がったご老体
足元ふらふら危うくて
海に落ちたら大変だ
船が着いたぞ荷をおろせ
船が着いたぞ荷をおろせ
八番目におろすのは
言葉の通じぬお馬様
素直に降りればいいものを
暴れりゃ蹴られて大変だ
船が着いたぞ荷をおろせ
船が着いたぞ荷をおろせ
九番目におろすのは
金を払わぬお客様
ただで乗せてやったのだから
そのまま牢屋に入れちまえ
船が着いたぞ荷をおろせ
船が着いたぞ荷をおろせ
十番目におろすのは
山積みされた荷物ども
これをおろせば仕事は終わり
終えて酒場で飲みまくれ